婚姻費用の実務運用の問題点1(離婚強制の手段化)

現状の離婚に関する実務の運用の問題点を指摘します。
問題がある以上、将来的には変化することが期待されます。問題点を指摘していかないと変化は起こりません。また、思わず早期に変化の利益を享受できるかもしれません。納得がいった方は是非、主張していってください。

婚姻費用について、現状の実務の一般的な運用について、問題点は多々ありますが、今回は婚姻費用が離婚強制の手段となってしまっているという点です。

婚姻費用は、一般的に、離婚前に夫婦が別居している状況で支払われます。
婚姻費用を支払わなければならない根拠は、夫婦の相互協力義務、つまり「夫婦は相互に助け合わなけれならない。よって、夫より妻の収入が少ない場合には、夫は、妻が夫と同程度の生活をできるだけのお金を支払わなければならない」ということにあります。

ただ、事実上、次のような使われ方をしています。

夫と離婚したい。ただ、夫が暴力を振るったわけでも浮気をしたわけでもなく、明確な離婚原因はない。でも、なんとか離婚したい。
→とりあえず妻は別居をし、夫に対して、婚姻費用請求の調停を起こす。
妻の離婚要求に納得がいかない。また、明確な離婚原因がないので、離婚要求を拒否し続ければ離婚裁判には勝てる。
→ただ、妻を戻ってこさせる法的手段はない。別居状況が3年から5年続けば、裁判所は、妻の離婚要求を認めると思われる。離婚に応じない限り、妻への婚姻費用の支払いは強制される。離婚に応じれば、妻への婚姻費用の支払いは免除される。

経済合理性を考えれば、早期に離婚に応ずることがトク。
この場合、婚姻費用は夫婦の相互協力義務の履行というよりは、妻の離婚要求に応じない夫に対する事実上の罰金として機能することになります。

妻の離婚要求に法的合理性はありません。それを拒否する夫の態度は法的に正当です。でも、その態度に罰金を科されてしまうのですから、明らかにおかしいといえます。

さらに、その根拠が夫婦の相互協力義務だというのですから、理解に苦しみます。妻は夫に対する協力義務を一方的に放棄して別居していながら、相互協力義務を根拠に婚姻費用だけは請求できるというのです。相互協力義務を定める同じ条文が夫婦の同居義務を定めていることを考えれば、なおさら不合理性が引き立ちます。

ということで、妻が明確な離婚原因もなく別居をはじめた場合には、婚姻費用の請求を認めるべきでないこと(つまりそのような請求は信義則違反または権利濫用であること)は、法律解釈としては自明といえるのですが、残念ながら、現在の実務ではそのような運用になっていません。

弁護士紹介

弁護士西雄一郎

弁護士 西 雄一郎
マイタウン法律事務所茅ヶ崎事務所所長弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。

Top