婚姻費用について、現状の裁判所の一般的な運用について、問題点は多々ありますが、今回は婚姻費用の支払いの結果、夫のほうが困窮するという逆転現象についてです。
夫婦が別居状況になり、夫が妻に婚姻費用を支払う状況になった場合、夫も妻も、今までよりも相当程度生活水準が低下します。
これは、二重生活になることにより、家賃等の住居費が二重にかかる上、今まで住んでいた住居に夫と妻いずれが住むにしろ、家族全員で生活する上では広すぎることになり、いろいろと無駄な費用を負担せざるを得ないからです。
ですから、婚姻費用の支払いをせざるを得ないことによって、今までより生活水準がある程度下がってしまうことは甘受せざるを得ないといえます。ところが、夫側はそのように生活水準が下がってしまうのに、妻側はほとんど困らない場合があります。たとえば、実家に戻って実家がもろもろ面倒見てくれているような場合です。
このような事情は、現在の婚姻費用の決定においてほとんど考慮されません。妻がいつでも実家を出て自活できるように等の理由からと思われます。
しかし、二重生活になり生活が苦しくなっている状況において、具体化もしていない「いつかは実家を出る」ことに備えて、費用を余分に支払うとうことに合理性はありません。実家を本当に出た後に、支払い額を変えるべきなのです。
または、妻の生活の面倒を見る義務は本来的には夫が負うべきであって、実家が面倒をみているのは実家の厚意にすぎない。それによって、夫が利益を得るのはおかしいという考えもあります。
しかし、そのおかしさよりも、自分と同程度の生活をさせる義務のはずなのに、自分以上の生活をさせる義務になってしまうという逆転現象のほうがよほどおかしいといえます。
妻が実家に甘えることができるとか、妻が収入はないが財産はあるとか、様々な事情はあります。どのような事情にしろ、婚姻費用の支払いという「自分と同程度の生活をさせる義務」の履行の結果、妻が夫よりも生活が楽になってしまうというのは、婚姻費用が根拠とする相互協力義務、扶養義務が想定しているものではありません。
このおかしさに気が付かないのは、おそらくは婚姻費用が相互協力義務ではなくて、妻が求める離婚に応じない懲罰となってしまっているからと思われます。懲罰であれば、妻が夫よりよい生活をしていても、何ら問題はないからです。
このような状況は本来の法律が想定している状況からしても、異常といえます。
弁護士 川邊 優喜
マイタウン法律事務所の所属弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。