面会交流について、現状の裁判所の一般的な運用について、問題点は多々ありますが、今回は面会交流において、子どもの意向を尊重することの問題点です。
夫側が面会交流を求めた場合のひとつの典型的な答えは、「子どもが望んでいない」というものです。
もちろん、「子どもが望んでいない」という回答が妻から来たとしても、「それでは諦めてください」ということには、多くの場合はならず、何とか子どもを説得して気持ちを変えさせて等という方向になりがちです。
少なくとも「子どもが面会交流を望んでいないこと」は面会交流を控えめにすべき要素として評価されます。なぜ、子どもの気持ちが問題になるかといえば、面会交流は第一次的には子どものために行うものであって、父親のために行うというのは二次的な問題である。だから、まずは子どもの意思を、という発想があります。
でも、子どもの気分なんて気まぐれです。さらにいえば、一緒に生活してる母親によって、かなりコントロール可能です。このようなことを考慮要素にしてよいのでしょうか。
そもそも、夫婦間に問題が発生せず、家族皆で同居しているのであれば、子どもが嫌がろうがなんだろうが、お父さんは帰ってきます。会わざるを得ないのです。
面会交流の本来の趣旨は、夫婦間の問題は夫婦間の問題として、親子関係についてはできるかぎり、今までのどおりの交流ができるようにして子どもの健全な成長を期待することにあります。
であれば、家族皆で同居しているときに、お父さんが家に帰ってきて子どもと接することに対して、子どもの意向が問題とならない以上、どんなに嫌でも、ふてくされていても会わなくてはならない以上、別居中の面会交流において子どもの意向を気にするのは筋違いといえます。
親子関係において、もっとも大切なことのひとつ、親であればこそできることのひとつは、遠慮なく叱ることです。親が子を本気で叱ることができるのは、親と子の縁は切りようもないから本気で叱ることができるし、叱らざるを得ないからです。
夫婦間に問題が生じ、父親と子が面会交流でしか交流できなくなったとしても、このような叱ることのできる関係を維持することは極めて大切です。しかし、子どもの意向によって面会交流がなくなるかもしれないような状況で、父親は真剣に子どもを叱ることができるのでしょうか?子どものご機嫌取りしかできなくなってしまうのではないでしょうか?
面会交流が子どもの利益のためにあるということを表面的にとらえ、子どもの意向を重視することは、子どもの真の利益を害しているものと思われます。
弁護士 戸谷 彰吾
マイタウン法律事務所の所長弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。