婚姻費用の実務運用の問題点2(住宅ローンの分配)

婚姻費用について、現状の一般的な運用について、問題点は多々ありますが、今回は住宅ローンを中心とした夫婦債務の分配の問題を指摘します。

婚姻費用の額は、いわゆる婚姻費用算定表に基づいて決めます。婚姻費用算定表においては、夫婦それぞれの収入と、子どもの数と年齢によって婚姻費用の額を決めることになっています。

その表の中に住宅ローンを考慮する項目はありません。つまり、単純に婚姻費用算定表を利用する場合、多額の住宅ローンはそのまま夫の負担で支払いつつ、それとは別に婚姻費用を支払えということになります。

もっとも、婚姻費用算定表について、弁護士や裁判官等の専門家が読む雑誌上での解釈等では、夫が妻の住む家の住宅ローンを支払っている場合、原則として住宅ローンを考慮すべきであることや、どのような計算で考慮すべきかということについて記載がされています。ただ、考慮するといっても、実際に必要な家賃相当額を基準としていたりするものであって、住宅ローン全額を考慮するようなものではありません。

ところが、実務上の感覚としては、原則として住宅ローンを考慮するのではなく、原則として考慮せず、場合によって多少考慮してあげる、というような状況ではないかと思えます。

なぜ、考慮しないのかといえば、住宅ローンは法的に見れば夫の個人的な借金に過ぎない。個人的な借金の支払いよりも妻への生活費の支払いを優先させるのは当然という論理があるからです。

確かに、夫が自分の趣味のために背負った借金であれば、このような論理もわかります。でも、住宅ローンが、そのようなものではないことは、誰の目にも明らかです。住宅ローンは、夫婦関係の永続性を信じた夫が、家族の幸せのためにあえてリスクを負って背負った巨額の借金です。家族関係と無関係ではなく、まさに家族のため以外に存在理由がないような借金です。このような借金の支払いについて、妻は全く無関係なのでしょうか?夫婦関係破綻後に、住宅ローンと妻の生活費の二重の支払い義務を負うことは、夫婦関係の永続性を信じた正直者が引き受けるやむをえない不利益なのでしょうか?

それはおかしいと言わざるを得ません。夫婦共同体が、将来の生活のために背負った借金は、夫婦がそれぞれ対等に責任を持つべきことは明らかです。ですから、まずは住宅ローンの支払い考慮した結果、妻へ支払う婚姻費用が大幅に減ってしまったとしても、それはやむを得ないことと言わざるを得ません。それで、夫が何らかの得をするわけではありません。住宅ローンと婚姻費用の二重払いの状況が多少ましになるだけです。

現実問題としても、家族全員が一緒に生活をすることを前提に購入した家は、別居(さらには離婚)を前提にした場合、広さ等において合理性を欠くことが多いといえます。

この場合は、売却する等して新たな生活を考える必要が出てきます。ですが、特に妻子が住宅ローン対象の自宅に住んでいる場合、今の生活を変えたくないと主張して、自宅の売却に難色をしめす場合があります。もちろん、その広めの自宅に住むコストを妻が負担するのであれば、問題はありませんが、実際は、住宅ローンというコストを夫に負担させて、広い自宅での生活継続を望むということになります。

これは、前記の住宅ローン考慮法の一つである、妻子の標準的な家賃相当分のみ住宅ローンを考慮するという方式でも同じ問題が出ます。標準以上の広い家に住むコストを夫に負担させて、メリットを妻が享受するというアンバランスが生まれます。

そして、婚姻費用算定表に基づく支払いは、このような要素がなくても夫側の経済状況を追い込みますので、このような受益と負担のアンバランスを強制された場合どうにもならない状況になりかねません。

以上のように、住宅ローンは夫個人の借金であるから考慮しない等というおかしな主張に対しては、毅然とした反論をしてくことが大切です。

弁護士紹介

弁護士 大倉 りえ
マイタウン法律事務所 大阪事務所 所長弁護士。男性・女性の離婚事件を数多く扱う。

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