離婚協議を進め、ある程度合意内容が決まってくると、「離婚協議書を公正証書にしたい」という話が出てくることがあります。このような話が出た場合、どのように対応すべきでしょうか。
公正証書とは
そもそも、公正証書とは、公証人が作成する、法律行為その他私権に関する事実についての証書のことを言います。
小難しい言い方をしましたが、離婚協議との関係では、「公証役場で公証人が作ってくれる離婚協議書」と考えていただければ、概ね間違いありません。
離婚公正証書を作成するには、原則、夫婦2人で公証役場へ行かなければなりません(夫婦のいずれかもしくは双方が代理人を立てて、公正証書を作成することもできます。)。離婚公正証書を作る公証役場の場所に決まりはありませんので、夫婦双方が行きやすい公証役場を選んでください。
公正証書にする意味(公正証書の効力)
離婚協議書を公正証書にする場合と、しない場合とでの一番大きな違いは、「合意した金銭債務に不履行があった場合に直ちに強制執行できるか否か」という点にあります。
たとえば、あなたが妻との間で、「妻は夫に対し、○年○月○日までに、離婚慰謝料として50万円を支払う」との合意をしたとします。しかし、その後、妻は支払期限を過ぎたにもかかわらず、50万円を支払いません。この場合に、あなたが妻から50万円を回収するためにはどうしたらよいでしょうか。
あなたが取るべき行動は、この合意を公正証書にしていた場合と、していなかった場合とで異なります。
公正証書にしていない場合
あなたはまず、妻を相手に裁判を起こし、勝訴判決を得る必要があります。そして、その判決をもとに、妻の給料を差し押さえるなどの強制執行手続を行い、妻から50万円を回収するのです。ただし、裁判を起こすとなると、裁判費用や弁護士費用がかかります。特に弁護士費用は、数十万となることもありますので、50万円を回収するために裁判を起こすと、逆に収支はマイナスになってしまうかもしれません。
公正証書にした場合
裁判をすることなく、直ちに強制執行手続を行い、妻から50万円を回収することができます。
このように、公正証書にしておけば、相手が金銭支払いの約束を破ったときに、スピーディーな回収ができるという点が公正証書の最大のメリットです(逆に、あなたが金銭を支払う立場であるときは、デメリットかもしれません。)。
公正証書のその他のメリットとしては、
ということがあります。
強制執行ができるのは、お金を払う約束が破られた時に限る
「合意書を公正証書にしていた場合は、裁判を経ることなく、直ちに強制執行手続ができる」とお話しました。しかし、公正証書にすれば、約束が破られたときに、何についてでも強制執行ができるというわけではありません。
公正証書により強制執行ができるのは、「お金を支払う」という約束が破られたときに限られます。
「不動産の名義を移転します」とか「面会交流を認めます」という約束については、公正証書にしていても、強制執行を行うことはできません。
また、「お金を支払う」という約束を公正証書にした場合でも、その約束の内容が曖昧であったりすると、強制執行できないこともあります。
このように、離婚協議書であればどんなものでも公正証書にしたほうがいいというものでもありませんし、公正証書への記載内容を誤れば、公正証書の一番のメリットを享受できないこともあります。
もし、あなたが離婚協議書を公正証書にすべきか悩んでいたり、公正証書の記載内容に悩んでいたりする場合には、一度弁護士に相談し、後悔のない離婚協議書を作成することをおすすめします。
弁護士 鍛代 智弥
マイタウン法律事務所所属の弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。