【養育費を支払う方へ】減額はいつから?裁判実務の問題点

はじめに:あなたの養育費、払い過ぎていませんか?

「元妻が再婚した」「自分の収入が大幅に減った」
このような事情で養育費の減額を求めたとき、「いつの時点から減額が認められるのか」は、支払う側にとって死活問題です。

しかし、現在の裁判所の実務運用では、支払う側にとって非常に不利な判断がなされるケースが多く、本来支払う必要のない養育費を払い続けてしまうリスクがあります。

この記事では、養育費の減額時期に関する実務上の問題点を指摘し、あなたがご自身の権利を守るためにどう主張すべきかを解説します。納得がいかないと感じた方は、ぜひこの記事を参考に、主張していってください。

【具体例】養育費減額のタイミング、ここがおかしい

まず、現在の実務で起こりがちな問題を、具体的なケースで見てみましょう。

≪事例≫

  • 2月1日: 元妻が再婚し、再婚相手があなたとの子と養子縁組をした(→この時点であなたの扶養義務は無くなるのが原則)。
  • 5月1日: あなたが、子が養子縁組した事実を知る。
  • 9月1日: 養育費の減額(支払免除)を求める調停を裁判所に申し立てる。

この場合、あなたが養育費を支払う義務がなくなるのはいつからでしょうか?
現在の一般的な実務では、「調停を申し立てた9月1日」からと判断される可能性が高いのです。

しかし、これは明らかにおかしいと言えます。あなたが養子縁組の事実に気づかなければ、支払う必要のない養育費を延々と払い続けることになります。この7ヶ月間(2月~8月)に払い過ぎたお金は、原則として返ってきません。

なぜ「調停申立て時」なのか?現行実務の根拠と矛盾

裁判所が「調停申立て時」を基準とするのは、婚姻費用や養育費を請求する際の考え方を流用しているためです。

すなわち、お金を請求する側は、請求の意思を明確にした時点(内容証明の送付時や調停申立て時)から権利が発生するという考え方です。

しかし、これを減額するケースにそのまま当てはめるのは乱暴すぎます。なぜなら、新たに請求する場合と、事情が変わって減額を求める場合とでは、状況が全く異なるからです。

「新規の請求」と「減額請求」が根本的に違う3つの理由

1.情報の非対称性:相手の状況変化は知り得ない

養育費などを新たに請求する場合、請求する側は「子どもがいる」など、請求の根拠となる事実を当然知っています。

一方で、養育費の減免を求める場合、その根拠となる事実(元妻の再婚・収入増、子の養子縁組など)は、相手が知らせてくれたり、こちらが敢えて調査しなければ分からない場合が多いといえます。知り得ない事実を基に「もっと早く調停を申し立てられたはずだ」とするのは不合理です。

2.事後的な精算手段がない

調停申立て時より前の未払いの婚姻費用は、離婚協議の財産分与の中で精算する機会があります。
しかし、養育費減額については、このような精算手続きが、事後的に予定されているわけではありません。

3.生活破綻のリスク:支払う側を救済する手段がない

婚姻費用や養育費が不足する場合は、生活保護等の社会的なセーフティネットがあります。
これに対して、過大な養育費を負担せざるえず、本人の生活がままならなくなってしまった場合の救済手段は事実上存在しません。つまり過大な養育費の許容度はより低いといえます。

これらの理由から、養育費の減額時期を一律に「調停申立て時」とすることは、極めて不公平な結果を生む可能性があるのです。

【提案】本来こうあるべき!ケース別の妥当な減額時期

ですので、養育費減額については、一律に調停申立て時とするような基準は不相当といえます。次のような基準が妥当なのではないでしょうか。

減額の理由減額を開始すべき時期
① 養育費の根拠自体が消滅した場合
(子が養子縁組した、就職した等)
その事実が発生した時
受け取る側の事情で、支払う側が知り得ない場合
(受け取る側の収入が大幅に増加した等)
その事実が発生した時
(※ただし、受け取る側が、その事実を遅滞なく支払う側に伝えたときは、調停申立て時)
③ 支払う側の事情で、自ら把握できる場合
(支払う側が失業・減収した、支払う側に新たな子どもが生まれた等)
調停を申し立てた時
弁護士野口真寿実

【弁護士紹介】
弁護士 野口真寿実

離婚部門主任弁護士。
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