アマゾンのCEOジェフ・ベゾス氏が離婚するそうです。
向こうの法律によると、夫婦の財産に関する契約を結んでいなければ、財産14兆円は半々にされるということのようです。
この状況は、こちら(つまり日本)の法律でもほとんど同じです。
夫婦の財産の契約は、結婚前の締結が必要な夫婦財産契約という制度がありますが、あまり利用されていません。また、割合は必ず半々というわけではなく、状況をみて割合を決めるというのが日本での運用です。なので状況に応じて、もう少し下がる可能性があるといえます。
これほど巨額ではないにしろ、企業経営者の離婚が企業の運営に大きな影響を及ぼしてしまうというのは、現在の離婚法運用のおかしな点です。
日本の法律で決めているのは、財産の分与は夫婦「双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮」して決めるということだけです(民法768条3項)。
法律の内容はまっとうです。
ベゾス氏が14兆円稼ぐ上で、妻がどれだけ貢献したかを考えればよいのです。
半分貢献したということは、ほとんど考えられません。1%の貢献(1400億円)だって十分貢献が認められたといえるかもしれません。妻という立場で1400億円の財産を形成するというのはほとんど想像がつきませんので、それでも過剰評価の気がしますが。
企業経営者の離婚の場合にも、財産の原則半額(いくら頑張っても3割)を分与するという運用がなされてしまっているために、離婚制度がおかしなことになってしまっています。
アマゾンほどの企業ではない、普通の中小企業。そこそこ順調な中小企業の経営者の場合でも、順調であればあるほど、余剰資金は最低限度でしょう。つまり、運転資金として必要な程度を確保し、あとは色々と将来に向けての投資をしていると思います。
そこで離婚になると、どんなに軽い状況でも確保しておくべき運転資金(売上の2ヶ月分等)の半分が失われることになります。下手すると、大きな借金をしないと企業をそのまま存続できないことにもなりかねません。
従業員の安定した生活、将来のために確保していた資金が、社長の個人的事情のために危険にさらされます。
このような状況で、妻が浮気をしたらどうなのでしょうか?
浮気した妻でも、財産分与請求権はあるということになっています(参考コラム:「妻が浮気した場合、有利に離婚できますか?」)。
離婚法では、妻が浮気した場合には、夫は離婚を求めることができます。でも妻に財産分与が必要で、そのために企業を危険にさらすのであれば、離婚を求めることはかなり躊躇せざるを得ません。 つまり、妻に過大な財産分与請求権を認める運用が、夫のごくまっとうな離婚請求権を事実上制限してしまっているといえます。
法律の内容は上記のとおりですので、この現状を変えるのに法改正は必要ありません。
私見ですが、財産分与の割合を決めるにあたっては、夫の収入の程度と同年齢の平均賃金との差を考えるべきだろうと思います。
たとえば、平均賃金程度の稼ぎであれば、財産分与は2分の1。
平均賃金の倍であれば、財産分与での妻の取り分は40%。
平均賃金の3倍であれば、妻の取り分は30%。
等ということを原則にして、その上で妻の実際の貢献に応じて修正するということが必要なのだろうと思います。
ジェフ・ベゾスの場合は、平均賃金の1億倍くらいでしょうから、どの程度の取り分になるのでしょうか?
また、日本の運用を前提にして、企業経営者が正当な権利を確保する唯一の方法は、夫婦財産契約を締結することです。 あまり利用が進んでいないとはいえ、企業経営をしていて結婚を考えている方は、真剣に検討することをおすすめします。
弁護士紹介
弁護士 西 雄一郎
マイタウン法律事務所 茅ヶ崎事務所 所長弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。