現状の離婚に関する実務の運用の問題点を指摘します。問題がある以上、将来的には変化することが期待されます。問題点を指摘していかないと変化は起こりません。また、思わず早期に変化の利益を享受できるかもしれません。納得がいった方は是非、主張していってください。
離婚原因について、現状の裁判所の一般的な運用について、問題点は多々ありますが、今回は有責配偶者の離婚請求認める3要件とされるものが、最高裁の考えを過度に単純化していることについてです。
有責配偶者の離婚請求(≒浮気した側からの離婚請求)は、
・長期間の別居(7年とか10年とか)
・小さい子がいないこと
・その他、相手が過酷な状況にならないこと
の3要件が、最高裁が示した要件とされていて、これに基づいて実務が運用されています。
しかし、根拠とされる昭和62年9月2日最高裁判決は、厳密にはそんなことは言っていません。
【実務の運用】
3要件を満たす場合(全部か一部かは別として)だけ離婚請求を認めている。
【実際の最高裁判決の内容】
最高裁は、有責配偶者の離婚請求を認めるかどうかを判断する上で考慮するより広範な諸事情を示している。3要件は、有責配偶者の離婚請求が許される場合の一例である。
という違いがあります。
ですから、最高裁の内容をしっかりと踏まえれば、3要件を満たさない場合であっても、有責配偶者の離婚請求は認められるはずです。
ここでは、最高裁の書いていることを、簡易化して書いていきます。
民法770条1項5号からは、有責配偶者の離婚請求を認めないという趣旨は読み取ることはできず、同号は婚姻破綻して回復不能であれば、離婚請求できるという規定である。
しかし、婚姻破綻して5号を満たせば常に離婚請求が認められるとなると、自分で離婚原因を作った上で離婚できることになってしまうので、これはおかしい。
そこで、離婚請求は、信義誠実の原則に照らして容認されるものである必要がある。
そして、信義誠実の原則に従っているかは次の事情を考慮すべきである。
・有責配偶者の責任の態様、程度
・相手配偶者の婚姻継続の意思
・相手配偶者の有責配偶者に対する感情
・離婚を認めた場合に相手方配偶者が精神的、社会的、経済的にどうなるか
・離婚を認めた場合に子がどうなるか
・別居後に形成された生活関係(内縁関係の状況等)
・時の経過 が上記事情に与える影響
ということを書いています。
その上で、3要件を満たす場合には、有責配偶者の離婚請求を認めるとしています。
この流れから分かるように、3要件は、3要件前に書いた信義誠実の原則に従った離婚請求が認められる諸事情が具体化した一例にすぎません。
3要件には、上記事情のうち、相手方配偶者の婚姻継続の意思とか相手方配偶者の有責配偶者に対する感情のことは含まれていません。これらの程度によっては、別の要件が生まれる余地があるということです。
たとえば、実際の最高裁判例は、上記の諸事情を書いた上で3要件を書いていますが、3要件ではなく、
「相手方配偶者が婚姻継続の意思を喪失しており、単に有責配偶者に対する復讐の目的のみで離婚を拒否していて、有責配偶者が社会的に相当程度の制裁を受けている場合には、有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」
だったり、
「有責配偶者であったとしても、有責行為時の婚姻状況が必ずしも円満とはいえず相手方配偶者にも破綻の責任の一端があること、相手方配偶者も同居の意思を喪失していること、別居後に内縁関係が形成されていて子がいる場合には、有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」
と続ける可能性もあるわけです。
ですから、有責配偶者に対する離婚請求を検討するにあたっては、単に3要件を議論するのではなく、上記諸事情を主張していき、この事情であれば、原告の離婚請求を認めても、信義誠実の原則に反するものではないと主張することが、最高裁判所が本来示した枠組みと考えるべきと思います。
弁護士紹介
弁護士 藤澤 玲央
マイタウン法律事務所所属弁護士。男性の離婚事件を数多く扱う。